今の自分の在り方を後悔したことはないけれど、それでも、酷い人間なのだろうなと思う。
目を覚ますとあたりは暗闇に包まれていた。まだ夜中だろうかと時計を探しかけて、右手に絡められた指に気付く。
ああ、そうだ。彼が来ていたのだった。
緩く絡められたそれを解くことは簡単だったけれど、僕はあえてそうはせず、空いた方の腕で枕元を探る。ひやりと冷たい感触が手に当たり、引き寄せてみればそれは僕の腕時計だった。文字盤が示す時間はAM3:47、ずいぶんと中途半端な時間に起きてしまったらしい。そのまま腕時計をつけてしまおうと思ったけれど、片手が使えない状態では難しく早々に諦めた。腕時計の重さがないと落ち着かない僕は、可能な限りいつも時計を外さずにいる。だけど、そのせいで彼を起こすのも忍びない。
本来その腕時計がはめられているはずの左手首には、赤く鬱血の跡が残っていて、目に入るたびに僕を落ち着かなくさせる。そういう行為に及ぶたび彼が執拗につけるものだから、もうすっかり痣のようになってしまった。僕の時計を外した彼はいつも、まるで何かの儀式のようにその手首へと口づけて跡を残す。そのかわり、他の場所には一切跡を残さない。その意味を、分からないほど僕は鈍くもない。いっそ分からないぐらい鈍ければ良かったと、彼の許容に罪悪感ばかりが募る。
彼と対峙しているときは開き直れているはずなのに、ふとした瞬間に出てきてしまう未練に似た何かを、僕は未だに上手く処理できずにいる。
あなたさえいればいいと言うことができない僕は、きっと彼からいろんなものを奪っているのだろう。
時間とか、可能性とか。それこそ彼が持つはずだった、輝かしいたくさんのものを。
それでも、伸ばされた腕を掴んだことを後悔していないのだから、己の欲深さにもう溜息も出ない。『心配すんな』僕に腕を差し出した彼は少し笑ってそう言った。『別にお前は変わらんでいい』…いや、多分、僕がそう言わせてしまったのだろう。笑みに走った微かな苦みを、見抜けない自分ではない。
緩く絡めあった指に力をこめると、お互いの体温がじわりと混ざる。その温度は、手のひらからゆっくりと、泣きたくなるような優しさを伴って、体中を巡っていく。体温まで優しいなんて、と、どこか絶望した気持ちになる僕は身勝手もいいところだ。こんなもの、ただの皮膚感覚でしかない。
そんなことは、分かっているのに。
瞬く間に時間は過ぎて、すぐに選択の時がくる。
最後の選択肢は絶対に間違えない。それだけは自信がある。
あの日から、ずっとそうやって生きてきたのだ。今更しくじるわけがない。
——だからちょっと、あとすこしだけ、